「我々は、《ラクリッツ》の白黒、小部屋の謎についての調査を、お前たちに託したい。危険な依頼であるため心苦しいが……お前たちが既に何者かによって狙われている以上は、どのみちお前たちも動かなければ命がない。襲撃者の件を、お前たちの妄言であり、《シュムック》の死もお前たちの……カルトの手によるものと疑う衛兵も少なくない。専属の
マリオンの言葉を受けた瞬間、三人の間に重い沈黙が降りた。カルトは複雑な表情を浮かべ、震える手で口元を覆った。
「あいつらが……、……《シュムック》が、人間に殺されていた……? しかも、それが俺の仕業だって……?」
その微かに震える肩へ、ヴァルムは冷静かつ力強く手を置いた。
「……わかりました。少しでも襲撃者の謎に迫る手掛かりがあるのなら、ぼく達はそれを確かめるべきだと思います」
アーベントの声に力が篭る。そのまっすぐな眼差しが鎧の下にあるマリオンの目を捉えた。
「準備ができ次第、一階の小部屋の調査をしましょう。……お二人も、それで大丈夫ですか?」
アーベントの問いかけに、ヴァルムは力強く頷き、カルトもまた、控えめに頷いた。
「であれば、公宮から衛兵隊を派遣しようぞ。まぁ……端的に言えば見張りじゃが、そなたらが居れば、以前のように全滅する危険もあるまいて」
ダンフォードの提案に、アーベントは深く頷いた。
「不確定な情報で混乱させてしまったならばすまない。だが、何にせよ、アーベントが不審なものを見たというマイグレックを擁するギルドである彼らを、警戒するに越したことはないだろうな。……その資料は持っていくといい。私は写しを持っているからな」
アーベントが資料を受け取りながら深く頷き、二人も続いて頷く。やがて、マリオンが立ち上がると、それがお開きの合図となった。
「ぼく達のために貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
アーベントの礼に、マリオンは首を横に振った。ふと、マリオンはカルトへと兜を向ける。その肩には、ヴァルムの手が置かれていた。彼女を厄災や悪意から守ろうとするように。
「いや……。……臭い言い方だが、私は、冒険者の絆を見ることが好きだ。そのためにギルド長を務めていると言っても、過言ではない。私には情報提供しかできないが、お前たちの絆の力で、此度の事件も解決できることを、祈っているよ」
「この老体も、支援は惜しまぬ。空飛ぶ城へ至り、『諸王の聖杯』を手にすることは、姫様の……いや、公国の悲願。今後、そなたらが迷宮を赴く際には、衛兵を何人かギルドハウスの警備につけよう。……名目上は監視ということになるじゃろうが、な」
ダンフォードの重々しい声に応じて、一行は深々と礼を述べ、石段を上り、地上へと出た。
「……やっぱり、向こうも調べ始めちゃってるね、これは」
彼らがギルドハウスへの帰路につく姿を、一つの影が鋭く見据えていた。