「衛兵は、後で引き取りに来るから下り階段の前に遺体を並べておいてくれと言っていたな。本当は街まで連れて帰りたいが、遺体はおれ達よりも人数が多いので従うほかあるまい」
ヴァルムがそう言うと、サクラとカルトと共に冷静に遺体を運び、アーベントとルスティは荷物を慎重に運んだ。できるだけ元の姿に近い形になるよう遺体を整え、改めて黙祷を捧げると、《ステルンツェルト》は今後の方針を決めるべく話し合うことにした。
「クロガネさんの戦闘能力がどのようなものかわかりませんが、フロースガルさんが
アーベントが強く提案し、仲間たちを見つめた。
「そうね! フロースガルさんとクロちゃんを、助けに行きましょーっ!」
ルスティもおーっと腕を上げたが、ヴァルムたち三人は対照的に冷静で、特にサクラとカルトは冷ややかな視線を投げかけた。
「悪質なギルドは少なくない。他のギルドに強力な魔物を押し付け、好敵手を減らそうとしていた可能性もある」
サクラが鋭く分析する。彼女の声は冷静だが、その言葉には警戒心が滲んでいる。
「あぁ……いるよな、そういう奴。《ベオウルフ》なんかは冒険者なら知らない者はいないくらい有名だが、裏でどんな悪どいことをやってるかなんて、誰も知らないんだ」
カルトが苦々しげに吐き出す。彼の表情には不信の色が濃く表れていた。
「……フロースガルから感じ取れたものが、人の好さだけではないことは確かだ」
ヴァルムの言葉には、冷静な分析と直感が交錯している。
「それは……」
(確かに、そうなんだよな……)
アーベントも彼らの懸念に頷く。フロースガルから感じた、怒りと憎悪。そして、《ステルンツェルト》にミッションと魔鹿を押し付けていったこと。この事実は、仲間たちに《ベオウルフ》への不信感を植え付けるに充分だ。
アーベントは考えを巡らせながらも、仲間たちの意見を尊重することの重要性を理解していた。彼の中で葛藤が渦巻く。
(サクラさんとカルトさんはあまり協力的じゃない……それは、恐らくぼくのまだ知らない、彼らの過去に起因している。彼らの考え方を変えさせるのは、簡単じゃない。ぼくが自分の意思を押し通すことで、せっかくまとまってきたギルドが割れてしまうかもしれない。でも、それでも……)
アーベントが思案に沈んでいると、ヴァルムが口を開いた。
「それでも」
アーベントの思考に重ねるように発せられるヴァルムの静かな声が、空気を変えた。
「おれ達が先に進まない理由はない。そして、彼らに危機が迫っていれば助ける。ともかく、彼らと再会してから、おれ達に魔物を押し付けた理由を聞けばいい」
「ヴァルムさん……」
アーベントは嬉しそうに顔を輝かせた。彼の言葉に背中を押され、再び仲間たちに向き直る。
「「……………………」」
サクラとカルトは顔を見合わせ、ため息をついた。
「お人好しばかりのギルドに関わったのが運の尽きか。まぁ……放置して死なれでもしたら寝ざめが悪いしな」
カルトが呟きながらも頷いた。
「我は人助けなどと崇高な趣味は持ち合わせておらぬが、魔物がいるならば斬るのみよ」
サクラも同意し、前方を見据えた。
「で、ではお二人とも……!」
渋々ながらも、彼らも《ベオウルフ》を追う意思を見せたことで、改めて一行は、四階に繋がる階段を上っていった。