「偵察おつ~。どうだった?」
《ラクリッツ》のギルドハウスへ戻った『解体の外科医』を、『毒剣の死舞』は眠そうに目を擦りながら、その引き締まった肉体を一切隠すことなく出迎えた。『毒剣の死舞』の腕には真新しい自傷の痕が幾つかあったが、それが自殺を目的としたものではないと、とうに知っているというように、『解体の外科医』は冷ややかに目を細めた。
「君またカルト君をオカズに
「うん! カルトちゃんマジ健康に効く~」
「まぁいいけど……。さすがに公宮の中へは侵入できなかったけど、だいぶ長い話をしていたようだったよ。あれは、十中八九僕らのことを調べ始めたね。ツュクラ君の結界をもってしてもアーベント君に感づかれちゃった僕も悪いんだけど。……とはいえ、確信には至ってないだろうね。《シュムック》の死因がバレたとしても、疑われるのは状況的にカルト君だろうし」
『解体の外科医』が爽やかに笑うと、『毒剣の死舞』は『解体の外科医』の腕を掴んで食って掛かった。
「え~!? それは困るよ! カルトちゃんが逮捕でもされちゃったら、俺もうあの子と愛し合えないじゃん~!」
「じゃ、公宮が先走らないことを願うしかないねえ。……あぁ、そういえばさっき、カルト君いたよ。ヴァルム君も一緒だったけど」
「えっ!? 昼間はカルトちゃんいなかったって言ったじゃん! 何だよも~……遠くから眺めるだけでも
「やだめんどくさい」
『毒剣の死舞』が幻覚毒で傷だらけの腕をぶらぶらさせながら差し出すと、『解体の外科医』は
「あ、でもこれヌルヌルしてイイかも……❤」
「はいはい、ここで
ぞくぞくと身を震わせる『毒剣の死舞』へ、『解体の外科医』は苦笑しながら話を続けた。全裸である点については、今更つっこむつもりもないらしい。
「でも、多分、向こうは僕らが動かない限り何もしてこないよ。彼らは情に厚いからね。他の冒険者の善性を信じたいだろうし、人を殺したいとも思っていないだろう」
「だろうね~。……でなかったら、今頃俺は、あの王子様に殺されてる。
『毒剣の死舞』は目を細めて笑う。彼の甘さを嘲笑うかのように。
「カルトちゃんはそういうところに惹かれてるんだろうなぁ……。羨ましいなぁ……」
はぁ、と悩ましげに『毒剣の死舞』は息を吐く。だが、次の瞬間――
「王子様がカルトちゃんにとって魅力的であればあるほど――愛し合う楽しみも大きくなるんだけどね……♪」
彼は自身の両腕を抱え、蕩けた表情を浮かべた。
「あはは、君は本当にどうしようもないねえ」
「だって、あの子、お姉ちゃんでしかも恋人がいるんだよ? しかも弟は二歳年下で
爽やかに乾いた笑いを浮かべる『解体の外科医』へ、『毒剣の死舞』は運命を力説する。その姿に、あぁ、と『解体の外科医』は手を叩いた。
「そういえば、君にもお姉さんがいたんだよね。――二歳年上の」
「そうそう。俺、姉ちゃんが好きだったんだよ。世界で一番、愛してた……。……結局、婚約者のところへ行っちゃったんだけどさ」
『毒剣の死舞』は、どこか遠くを見るように、目を細めた。
「それで君は、恋人のいる女の子や、『姉』という存在を寝取る悦びに目覚めてしまった、と……。いや、変態ここに極まれりだね」
「愛って言ってよ。……その中でもカルトちゃんは完璧だよ。お姉ちゃんで、王子様がいて。最初は顔立ちの整った男かと思ってたけど、女の子だって暴いたときのギャップがたまらなかったね。完全に『女の子』の反応になって、何度も何度も王子様の名前を必死で呼んでさ……ゾクゾクしちゃった。あぁ、思い出したらまた……❤」
体中からあらゆる体液を流しながら、『毒剣の死舞』は恍惚に身体を震わせた。
「僕はそういう感覚わからないから、ある意味羨ましいねえ。僕なんか、研修医時代に先生の医療ミスで死んだクソ親――、……患者の苦しむ様に滅びの美を見出して、この道に入ったってだけだから」
「いやあんたも充分異常だってば!」
『毒剣の死舞』のゲラ笑いツッコミをリビングに響かせながら、彼らの狂った夜は更けていく。
後の『毒剣の死舞』の報告書は、殆どがこれまでに書かれた『影の狙撃手』の報告書を書き写しただけだったが、最後にこう書き加えられていた。
あの凛々しい見た目と、鎧を剥いだときの弱々しさのギャップがたまらない。
二歳下の闇狩人の弟がいるお姉ちゃんなところも最高。
愛し合う王子様がいるのに、未だ乙女らしいところも。
理想の女性に出会えたのは、人生で二度目だ。
早くどろどろのぐちゃぐちゃにしたい。
絶 対 に 、 俺 の も の に す る 。
4章3節 闇よりの足音 完