「ちぇっ、ちぇっ。なんだよアイツ、ちょっと年長者で賢いからって偉そうにしちゃってさ。俺の調査は的確です~!」
『毒剣の死舞』は、不機嫌そうにぶつぶつ言いながら夕方の街を歩いていた。情報収集のための任務を受けていたものの、途中から女性の後をつけることに夢中になり、真面目にやる気がないことは明らかだった。
「おや……」
ふと目に留まったものは、青紫のセミロングの髪をなびかせながら街を歩く、銃を背負った防寒服の『青年』――標的の一人である、銃士カルトの姿だった。交易所の近くを歩いているところからして、買い物帰りなのだろう。
「ん~……まあいっか。女の子追いかけるのはいつでもできるし」
『毒剣の死舞』は、ストーキングを切り上げ、予定を変更して『彼』を尾けることにした。
人通りが少なくなると同時に、『毒剣の死舞』は仮面を取り出すと、それを被り目元と頭を覆った。表世界でも活動している手前、街中で正体が割れるリスクを避けるための行動だ。
すると、カルトぴたりと足を止め、溜息交じりに振り返った。そこには誰の姿もなかったが、カルトは構わず呼びかける。
「そこの奴、殺気が隠せてないんだよ。出てこい」
カルトが銃を構えると、『毒剣の死舞』が両手を挙げて、木陰から現れた。
「何者だ。事と次第によっては、公宮へ報告させてもらう」
鋭い眼差しを向けるカルトに対し、『毒剣の死舞』は口元だけでへらへらと笑った。
「やだなぁ、俺もたまたまこっちに用があっただけだよ。そう警戒しないで……よっ!」
言い終えると同時に、『毒剣の死舞』は袖の中からナイフを取り出し、カルトの脇腹を狙って投げつけた。
「くっ!」
カルトはすかさず飛び退き、ナイフを避けたが、その隙に『毒剣の死舞』はカルトの背後に回り込んでいた。
「さすが強豪ギルド、反射神経がいい。だけど、ここまで近づかれたら、
『毒剣の死舞』が、カルトの肩口をナイフで斬りつけると、びくりとカルトの身体が跳ね、その場に座り込んでしまう。
「う、っ……」
「即効性の毒だよ。といっても、死に至るわけじゃない。ちょっと痺れるだけさ。あんまり街で仕事をすることはないんだけど、せっかく一人でいるところを見つけちゃったからねぇ?」
『毒剣の死舞』は口元を歪ませて笑うと、銃を草陰に隠し、カルトを抱えてどこかへと連れ去った。
「ヴァ……、……………………」
カルトは麻痺毒が身体に回り、呂律が回らない。叫び声はおろか、ろくに言葉も発せず、『毒剣の死舞』に抱えられたまま、くたりと項垂れた。