「ねぇ、君、大丈夫?」
『毒剣の死舞』が、その彼女へ目線を合わせるようにしゃがみ、心配そうな表情で覗き込んだ。
サニーは青褪めた顔で、こくこくと首を縦に振る。その姿を見て、『毒剣の死舞』は、嬉しそうにぱぁっと顔を輝かせた。
「良かった! まだ正気でいてくれてたんだぁ!」
「え……、……ぇ?」
『毒剣の死舞』の笑みが、狂気を孕んだそれへと変わる。目線を下に落としたサニーは、『毒剣の死舞』が腰から下に何も纏っていないことに気付き、がたがたと震え出した。
「や……やめてやめてやめて! “それ”以外なら、私なんでもしますからぁ!!」
『毒剣の死舞』の手が、サニーの目の前まで伸ばされると――
「いやああぁっ!!! シュベルト、シュベルトおぉ!!」
彼女の世界は暗転した。
やがて――
「あはっ……。あひっ、あひゃ、あははははははは!!!!!」
数十分後、サニーが突如として、狂気的な笑い声を上げ出した。
「あ、壊れちゃった。もっとたくさん愛し合いたかったなぁ……。この子、俺の好みじゃないけど、そこの彼を呼ぶ姿がすごく可愛かったし。よっぽど大好きだったんだろうなぁ」
「それじゃ、僕と交代かな。ほんとは正気のある時にやりたいんだけどねぇ、こういうことは。……ほーら、サニーちゃん、こわくないよー」
「いひっ、いっ、ぎ……」
『毒剣の死舞』がその場を譲ると、『解体の外科医』が彼女の腹部へメスを突き立てる。サニーの身体がびくんと跳ねると、眼球がぐるんと回った。
欲望に塗れた蹂躙の間中、『血染めの狩人』は、食事を終えて興味を失くしたようで、結界の中で丸くなって眠っていた。
「今回はサラマンドラに丸焼きにさせるってことだから……中身を出せないのが残念だけど、まぁ、出来る範囲で解体しますか」
「ぅっゎ、えぐっ~……」
「君にえぐいとか言われたくないよ」
この異常な状況で、日常会話のように談笑をしながら、『解体の外科医』は、彼女を解体し続けた。
「遅い。……さっさとサラマンドラの巣へ連れて行くぞ」
漸く出てきた『毒剣の死舞』と『解体の外科医』を、仮面を付けた『影の狙撃手』が睨みつけながら舌打ちする。
「ごめんごめーん。あのさ、さすがに重くて二人で死体三つは無理だよ。ネコチャンも寝ちゃってて手伝ってくれないし……せめて男くらいはあんたが持ってくれない?」
『毒剣の死舞』が手を合わせて頼み込むと、『影の狙撃手』は、ふぅ、と息をついて、結界の中へと入った。凄惨な死を迎えたらしいサニーの前で男は一度足を止めたのち、シュベルトを肩に担ぎ、それからアルカとサニーを両腕に抱えて、結界から出てきた。
「おーぅ、力持ち~」
「黙れ。彼らを連れて行く。周りに人がいないか警戒しろ」
「「はーい」」
仮面を付けた『毒剣の死舞』と『解体の外科医』が、まるで子供のように右手を上げて応える。その姿に、『影の狙撃手』はもう一度舌打ちし、《シュムック》の遺体をサラマンドラの部屋へ運んだ。
「ふーむ。二束三文とは言ったけど、彼らの付けている装飾品はどれも一級品だよ……。このまま捨て置くなんて勿体ないね」
「我慢しろ。遺品を奪えば人の仕業と怪しまれる」
サラマンドラの巣の傍に遺体を並べた『影の狙撃手』は、しっしっと手で他のメンバーを追い払う仕草を取る。
「あー、仕事の後っておなか減るよね。今夜は鋼の棘魚亭でご飯食べよっか。正直、『地下』よりあそこの方がずっと美味しいや」
「さんせーい!」
呑気に夕飯の計画を立てながらぞろぞろと部屋を出ていく一行を見送ると、『影の狙撃手』は、《シュムック》へ振り返った。
「俺を……恨んでくれ」
彼らへ小さく一礼すると、『影の狙撃手』もまた、部屋を後にする。けれど、その足は《ラクリッツ》の者たちとは別の方を向いていた。
「“あいつら”を……捜してやらないとな。まだ、生きていればいいが……」
呟いた彼は、九階へ続く階段を上っていった。